サイオステクノロジーにて、Red Hat, Elastic , EDBなどのオープンソースソフトウェアのエンタープライズ向けソリューションの事業企画・SAを担当している村田です。本日はセキュリティ対策の新たなトレンドとなるMTCRについて解説いたします。
2025年に猛威を振るったランサム攻撃ですが、2026年も継続して攻撃が過激化する傾向が想定されています。具体的な傾向は前回の記事で紹介した内容をご参照してもらえたらと思います。
ここで重要なのは、最新のAIを用いた攻撃は既存のセキュリティ網を掻い潜り、内部への侵入・そして破壊と窃取が仕組み化され容易に実施されてしまう可能性が高いため、境界防御から多層防御への移行、そしてレジリエンス(回復性)を重要視しなければならないことを前回の記事でご案内しました。
この状況はグローバルでは多くのリーダーは認識しており、境界防御からレジリエンスへの投資へとIT予算の割合が変わり始めています。日本ではまだまだ境界防御へ頼る傾向が残っていますが、経済産業省より、サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に関する制度構築方針が発表されたことにより★4レベルを実現するうえでシステムの防御の他に検知及びインシデント対応まで述べられてることから意識が変わってくる可能性が高いと見ています。
★4:サプライチェーン企業等が標準的に目指すべきセキュリティ対策として、組織ガバナンス・取引先管理、システム防御・検知及びインシデント対応等包括的な対策を実施する段階
では、レジリエンスを考えるうえで何から実施すればよいのか?ここがイメージしにくいところではないかと思います。今回は、このレジリエンスを検討するうえで2026年に関心が増大している新たなトレンドとしてMTCRという新たな指標もでてきましたのでこちらを今回は紹介していきます。
MTCR: Mean Time to Clean Recovery とは?
MTCRを一言でいうと、「システムを『完全にクリーンな状態』で復旧させるまでにかかる平均時間」のことです。これまではMTTR( Mean Time To Recovery )という用語は使われてきましたが単純な復旧は再汚染による再被害を発生させる可能性が高いため、2026年現在のセキュリティ戦略において、従来のMTTRに代わる「真の回復力(レジリエンス)」を測る最重要指標とされています。
MTCRの計測には、攻撃者侵入の特定からクリーンルームでの監視・検証完了までの時間を計測する必要があります。
MTCRを設計するうえで重要なポイントをまとめると以下の3項目が重要になります。
- 「Clean(クリーン)」が最優先
単に「システムが動く状態」に戻すのではなく、「攻撃者の痕跡やバックドア、マルウェアが完全に排除された保証がある状態」まで戻す時間を指します。 - 再汚染の防止
ランサムウェア攻撃などでは、バックアップ自体が汚染されているケースが多々あります。MTCRを重視する組織は、隔離された環境(クリーンルーム)でデータをスキャンし、安全を確認してから本番環境へ戻すプロセスを評価対象にします。 - 「スピード」より「整合性」
MTTRは「早さ」を競いますが、MTCRは「二度と同じ攻撃を許さない確実な復旧」を競います。2024年のCrowdStrike障害や近年の高度なランサムウェア被害を経て、経営層が最も注視するようになった数字です。
ランサムウェアの被害が発生した際に、いつかマルウェアの購入や攻撃者の侵入を許していたのかをログなどから解析し、汚染されているシステムの分離と、汚染されたタイミングを把握する必要があります。この痕跡を知るために重要なのがSIEM(Security Information and Event Management:セキュリティ情報イベント管理)となり、MTCRを設計するうえでSIEMは併せて検討されるソリューションとなっています。
MTCRとSIEMの関係
MTCRにおいて、SIEMは「復旧の妥当性を証明する」役割を果たします。バックアップ製品が「復旧という作業(Action)」を担うのに対し、SIEMは「いつの状態に戻すべきか、その状態は本当に安全か(Decision & Validation)」を判断するための証拠を提供します。
1. 汚染開始点の特定(「いつ」に戻すかの決定)
MTCRで最も重要なのは、「攻撃者が侵入した瞬間(Patient Zero)」を特定することです。これを見誤ると、バックドアが含まれた「汚染済みバックアップ」を復元してしまい、再発(Re-infection)を招きます。
- SIEMの役割: 数ヶ月分のログを横断的に分析し、最初の不審な挙動や特権アカウントの悪用を特定。
- 効果: 確実にクリーンと言える「最後で最良のバックアップ(Last Known Good Copy)」の選択を可能にします。
2. 根本原因の解析(「何」を塞ぐかの特定)
「クリーンな復旧」とは、穴が開いたままのバケツに水を戻さないことです。
- SIEMの役割: 攻撃者がどの脆弱性を突き、どの設定不備を利用したかを明らかにします。
- 効果: 復旧作業と並行して「脆弱性の修正」を行うための具体的指示を出し、復旧直後の再攻撃を防ぎます。
3. 「クリーンルーム」でのリアルタイム監視(復旧の検証)
2026年の標準的なレジリエンス手法では、隔離環境(クリーンルーム)で復旧テストを行います。
- SIEMの役割: 復元されたシステムをクリーンルーム内で監視し、休眠していたマルウェアが起動時に通信を開始しないか、不審なプロセスが動かないかをチェックします。
- 効果: 「復旧完了」の宣言に、客観的な安全性のエビデンスを付与します。
MTCRを高めるための更なる取り組み
MTCRのためにSIEMが重要な役割を果たすことはここまでご紹介してきましたが、その他にも取り組みが推奨される項目があります。インフラ環境から開発環境まで含めて既存の業務や仕組み自体の見直しも必要になります。これは長期的な取り組みとなりますので今から改善に着手し、不確実な現状に対して柔軟に対応できる組織・インフラへと変革頂くことが推奨されます。
1. クリーンルーム(隔離復旧環境:IRE)の自動構築
MTCRの「Clean」を保証するための最も重要な取り組みです。本番環境とは物理的・論理的に切り離された Isolated Recovery Environment (IRE) を用意します。
- 取り組み: インシデント発生時、汚染されていない隔離されている環境・クラウド上で「クリーンなインフラ」をOpenShiftやAnsibleなどを利用した IaC(Infrastructure as Code) で即座に自動展開します。
- 効果: 汚染された既存サーバーのクリーンアップを待つ必要がなくなり、復旧時間を大幅に短縮できます。
2. 不変ストレージ(Immutable Storage)とエアギャップ
バックアップデータそのものがランサムウェアで暗号化・削除されるのを防ぐための物理的な防壁です。
- 取り組み: 一度書き込むと消去・変更ができない WORM(Write Once Read Many) 属性を持つストレージを採用し、さらにネットワークから切り離された 「エアギャップ」 状態で保管します。
- 効果: 「戻すべきデータが消えている」という最悪の事態を防ぎ、復旧の起点(Last Known Good Copy)を確実に確保します。
3. SBOM(ソフトウェア部品構成表)の活用
復旧させるソフトウェアの「中身」が安全であることを保証します。
- 取り組み: システムに含まれるすべてのライブラリやコンポーネントを SBOM で管理し、最新の脆弱性情報とリアルタイムで突き合わせます。
- 効果: 復旧しようとしているシステムに未修正の脆弱性が含まれていないかを瞬時に判断でき、復旧直後の再攻撃を防ぎます。
4. SysOps(運用)とSecOps(セキュリティ)の組織的統合
技術だけでなく、「誰が復旧のGOサインを出すか」というプロセスの最適化も必要となります。日頃から復旧訓練などを実施することはレジリエンスを高めるために重要な取り組みとなります。
- 取り組み: 普段は別々に動いているITインフラチーム(バックアップ担当)とセキュリティチーム(調査担当)が、共通のダッシュボードで復旧プロセスを共有する体制を構築します。日頃の訓練を加えることで効果はさらに向上。
- 効果: 「セキュリティ側の調査が終わるまで復旧作業に着手できない」といった部門間のボトルネックを解消します。
2026年 セキュリティ対策のフォーカスポイント:MTCRを実現するIaCベースの運用プラットフォームについてまとめた記事は下記のRed Hat Portalの記事をご参照ください。

今回は、MTCRを中心に記事をまとめてみました。MTCRは長期的な取り組みであり、今すぐ実現できるものではありませんが、今から一つずつ取り組むことが重要となります。
サイオステクノロジーでは、このようなセキュリティの課題に対して伴走型で課題を整理しながら解決のためのアプローチを行います。ぜひお気軽にご相談ください。



